私は接客をされることが元々苦手だった。共感してくれる人は少なくないだろう。
店員と客という関係はどのような距離感が望ましいのか掴みにくい。買い物に行って店員さんに話しかけられてもオドオド、キョドキョドしてしまい「アッアッ……」しか言えない不審者になってしまうのが私だ。
さて、そんなオドキョド族の私にとって服屋さんで服を買うのはなかなかの鬼門である。気になる服屋さんに入っても店員さんが近づいてくるとさりげなーく距離をとったりお店を出てしまったりする。
しかし、そんな私にもお洋服屋さんで店員さんとしっかりコミュニケーションを取り、満足な買い物が出来た経験がある。
夏に向けてカジュアルなジーンズが欲しいなと思っていた時の買い物だった。
私は洋服を買うのにとても時間をかけてしまうタイプである。それというのも、どうも私の体型にぴたりと合う服になかなか出会えないのである。
ジーンズも例外ではない。太ももやお尻のぴちぴち感が気になってしまったり、逆にお尻部分の布が余ってしまったり、中々満足できるアイテムに出会えない。
この時も色々な服屋さんを見てどれもしっくりこないなと彷徨った果てのG◯Pだった。
正直私はG◯Pはそれまで利用したことはなかった。カジュアルすぎて自分にはあまり馴染まないなという印象があったのである。
しかしながらお店の中には様々な種類のジーンズが並んでいるのが見え、ここなら自分の理想のものがあるかもしれないという予感がし、私は店に足を踏み入れたのである。
入り口から間もないところに様々な種類のジーンズがレイアウトされている棚があった。
スキニーやストレートはまだわかるが初めて聞くような様々なデニムの名前が並んでいる。どれを選べばいいのかピンとこず、手当たり次第にサイズを探して試着するしかないのかと考えていたところである。
「こんにちは。何かお探しですか?」
現れたのが今回の記事の主役の店員さんだ。華やかな雰囲気を持ちながらも親しみのある笑顔の20代後半くらいの女性である。
「アッ、ジーンズを探していて……」
オドキョド族の私は「アッ」からしか話し始められない。それでも店員さんは愛想良く接客を続けてくれる。
「何かこれがいいなとかありますか?」
「アッ、ソノ、どれがいいのかよくわからなくて悩んでいるんです」
会話はなんとなくこんな会話をしたかなというふんわりした記憶で再現している。
いつも店員さんに話しかけられると逃げたくなる私だが、この時はジーンズ探しの旅に疲れ果てており、これだけジーンズがあるんだし店員さんに聞けばいいものが見つかるかも!と思い、素直に悩んでいることを相談した。
「なるほど、こだわりなどはありますか?」
「アッ、ぴったりしたジーンズを穿くと太ももやお尻周りの太さが露骨に出るのが気になってしまうんです。でもゆったりしたものを穿くと野暮ったく見えてしまうんです。私、足がすごく太くて」
「ええ!?そんなことないですよ!お客様スタイルいいじゃないですか!」
つい自虐的な悩み相談をしてしまったが店員さんは明るくフォローを入れてくれた。私は単純なので褒められると素直に喜ぶ。
「でもそうですね、太ももとお尻周りが気になってゆったりしたものはお好みではないならこのタイプかこのタイプがいいんじゃないですか?」
店員さんは私には全く見分けのつかないジーンズの海の中からひょいひょいと2本のジーンズを取り出した。
「これはどちらもお尻と太もも周りが広めに作られているんですけど、足首にかけて細くなっているのでお客様のご希望に合うと思います」
なんと店員さんは私のわがままな希望を叶えるジーンズをぱぱっと選定してしまったのである。
店員さんにお礼を良い、試着してみる。
私の理想とするシルエットがそこにはあった。
自分1人だったらどれがいいかわからず、何度も試着し、これじゃない感に絶望し、泥沼化して最終的には疲れ果てて「今日も収穫がなかった……」と肩を落として帰るところだっただろう。そんな服を買う時のストレスをあの店員さんは簡単に解決してくれたのである。
試着した時の感動は今でも覚えている。私の理想のジーンズが見つけられたという喜びも。
本当にあの店員さんには感謝しかない。会計時に接客アンケートの紙をもらったのだが、普段は捨てるところをこの時はいかに店員さんの接客に満足したかを「その他」欄に書き綴った。
ただ、その店員さんの名前をよく見ていなかったため、ちゃんと感謝の気持ちが伝わっているかだけが心残りだ。
何はともあれ、そのジーンズは一軍の服となり毎年ワンシーズン穿き倒している。まだまだこれから何年も穿くつもりだ。
こんな何年も穿きたいと思える服に出会えたのもあの店員さんのおかげである。今まで接客されるのが苦手だった私だったが、これからは接客も積極的に受けていこうと思った。
接客とは、商品の知識に乏しいが自分の満足のいくものを選びたいという私のようなこだわりの強い客こそ買い物のストレスを減らすために受けるべきなのである。
というわけで、一生もののジーンズを選定してくれ、接客を受けることへの苦手感も解消してくれたあの時の店員さんが私の中でずっと心に残っており、「すごい!」と思った店員さんなのである。
ちなみに後から知ったのだがG◯Pには「誰もが自分に合うジーンズを簡単に見つけられるようにしたい」という信念があるとのことだった。あの店員さんはその企業の信念を見事に体現してくれたのだ。改めてあの店員さんはプロフェッショナルだったのだと実感した。
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